大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和27年(ネ)896号 判決 1953年10月08日

控訴人 渡辺与一

被控訴人 小林玉枝

〔抄 録〕

控訴代理人は、原判決を取消す、被控訴人は控訴人に対し東京都大田区馬込町東二丁目九百五十五番宅地百坪上に存する木造瓦トタン交葺二階建一棟建坪十八坪六合二勺二階十一坪二合五勺(家屋番号同町三七八)を取去して該宅地を明渡せ、被控訴人は控訴人に対し昭和二十一年三月一日から同二十四年五月末日は月額金十五円、同年六月一日から同二十五年七月末日迄は月額金百六十一円、同年八月一日から明渡済迄は月額金三百八十八円の割合による金品を支払え、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする旨の判決並に仮執行の宣言を求め、

被控訴人は主文第一項同旨の判決を求めた。

事実並に証拠の関係は、

控訴代理人に於て、新に予備的請求原因として、被控訴人は昭和二十六年九月十日控訴人に対して、昭和二十一年三月一日以降当時迄の延滞賃料を昭和二十六年九月三十日迄に支払うべく、若し右期日迄に支払わないときは本件賃貸借契約は当然解除となり被控訴人は本件土地を直ちに控訴人え明渡すことを約束したところ、被控訴人は約旨に背き右期限迄に前記債務を履行しなかつたから、本件賃貸借契約は当然解除となり被控訴人は右契約に基いて本件土地を控訴人に明渡すべき義務がある。よつて、仮に、賃料支払の催告を前提とする契約解除の意思表示に基く本訴請求が採用されないとしても、右契約に基く本件明渡の請求は許さるべきであると述べ、

被控訴人に於て、被控訴人が昭和二十六年九月十日控訴人と、控訴人が主張するような契約を締結したことは認めるが、被控訴人は昭和二十六年九月三十日延滞賃料全額を控訴人方え持参提供したところ、控訴人は右延滞賃料の外損害金をも併せて請求し延滞賃料の受領を拒んだから、被控訴人には債務不履行の責任はないと述べ、

新に、控訴代理人は、甲第四ないし甲第十号証を提出し、当審証人渡辺トメ、守田京子、当審に於ける控訴本人、被控訴本人(但し訊問調書第八、九項を除く)の各供述を援用し、被控訴人は、当審証人守田京子、当審に於ける被控訴本人の各供述を援用し、甲第四ないし甲第七号証、甲第九、十号証の成立を認め、甲第八号証の成立は不知と述べた外は、すべて原判決の事実に記載してあるとおりであるからこれを引用する。

理由

当裁判所は、控訴人の本訴請求を理由がないものと認める。

そして、その理由は、以下に附加、補足する外、すべて原判決がその理由に於て説示するところと、ことならないから、これを引用する。

即ち、原審の資料に、控訴人が当審に於て新に提出、援用する資料を加えて判断しても、到底原審認定とことなる心証を得難く、却て、原審認定の資料に、当審証人守田京子、当審に於ける被控訴本人の各供述を加えて判断すれば、原審認定が一層相当であつた心証を更に深める。当審証人渡辺トメ、当審に於ける控訴本人の各供述中原審認定に反する部分は、原審認定に供した資料並に当審証人守田京子、当審に於ける被控訴本人の各供述に照して採用しない。その他、控訴人の立証によるも、到底原審認定を覆すことは出来ない。

次に、控訴人の予備的主張については、控訴人は当審の最終の口頭弁論に於て始めてこれを主張するに至つたものであり、被控訴人は右主張に対しては、契約の成立は認めたが債務不履行の事実はこれを争ひ、履行の提供をした事実を主張したことは記録上明白である。

従て、控訴人の右主張の当否を判定するには、被控訴人主張の右履行の提供の事実の有無について証拠調を必要とすることは云う迄もないところ、記録によれば、本訴は昭和二十六年十一月五日原審え提起されて以来当審の最終の口頭弁論の行われた昭和二十八年九月二十四日迄約二年に近い歳月の間、原審に於ては四囘、当審に於ては五囘の口頭弁論が行われたことは記録上明白であるから、控訴人が右主張をなし得べき機会は十分に存在していたものであり、従前これをなし得べき機会を徒過し控訴審である当審最終の口頭弁論に突如としてこれを主張するが如きは、故意又は重大な過失に因り時機に後れて攻撃方法を提出したものと認めざるを得ない。然も、右主張の当否を判定するには、改めて証拠調を必要とすること前段説示のとおりであるから、右主張を許す以上訴訟の完結を遅延させるに至ることは云う迄もないから、当裁判所は右主張を民事訴訟法第百三十九条第一項に則り職権を以て却下する。

よつて、原判決は相当で本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三百八十四条第一項、第九十五条、第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例